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タイトル:『乃凪先輩が主役の話』



極めてありふれた出だしで誠に恐縮だが、ある日のことだった。




悦 「あー、暇ですねー、範尚先輩」

乃凪 「いや、それほどでも」

悦 「マジですか!? それじゃあ私とお話ししましょうよ」

乃凪 「何で風紀には話が通じない人間が多いんだろうなぁ……」



その日は風紀の集まりがあった。
留守番組の俺と紺青以外は皆見回りに出かけていた。



悦 「聞こえてますよ? 聞こえてますけどお話ししたいなって」

乃凪 「なら自ら話題を提供してみろ?」

悦 「先輩って声は優しいのに言葉使いは悪いですよねー」

乃凪 「この高校で培われたんだよ」

悦 「お疲れ様です。あ、じゃあ何か面白い話しますね! どんなオカルト話が良いですか?」

乃凪 「オカルト以外でお願いできますか?」

悦 「範尚先輩ワガママですよー。……あ、じゃあこういうのはどうですか?」

乃凪 「近い近い。あんまり身を乗り出さないで」

悦 「この間、“皆で学校の目玉になる新しいイベントを考えよう”って話を全校集会でされたじゃないですかー」

乃凪 「突然何なんだろうな、新入生を獲得する為かな」

悦 「確かに昨今の少子化は問題ありますもんねー。でも時代がね、産めよ増やせよじゃないから」

乃凪 「紺青さん、歳いくつ?」

悦 「という訳で、風紀でも何かイベントを考えて提出しません? 個人団体問わずだそうですし!」

乃凪 「……そういう勢いのあることは若い子だけでやって」

悦 「先輩こそいくつですか! 駄目ですよ、若いうちに沢山遊んで友達作っとかなきゃ! 大人になったらどっちも難しくなるんだから!」

乃凪 「紺青さん、何かあったの?」

悦 「ドラマや漫画の受け売りです。作ってるのが大人だからそういう押しつけばっかり」

悦 「夢や希望に満ち溢れた世界に癒されたいのって、若い子じゃなくて大人の方ですよね」

乃凪 「やめなさい。彼らも一定の経験を経てそういうことを言ってるんだから」

悦 「でも多くなりましたよね、枯れた大人が主役の話」

乃凪 「多くなったかどうかは分からんが……そもそも紺青、見てる番組偏ってないか?」

悦 「しかも『いやいや、どう見てもお前のスペックで恋人いないとか無理ない? 機会がないってどんな孤島にいたんだよ』って主人公も多いし」

乃凪 「頑張る主人公が成長してくって流れだけじゃ見てる側がついてこなくなったんだろ? 大体そういうのって使い古されてるし」

悦 「逆にそのまま何の成功譚もなく終わってく話があったら見てみたいですけど」

乃凪 「見てて鬱にしかならない展開なんて嫌だろ。逆にそういう作りで視聴者獲得できたらこの国凄いわ」

悦 「一定の層には受けそうですけどね」

乃凪 「…………」

悦 「どうしたんですか?」

乃凪 「いや、何の話でこうなったんだっけ?」

悦 「イベントの話です! 範尚先輩ならどんなイベントを考えますか?」

乃凪 「唐突だな……まず学校行事であるからには、それなりに清く正しく……だろ? なら……掃除大会とか?」

悦 「大掃除との差別化は?」

乃凪 「…………」

悦 「範尚先輩、ここに葛先輩がいなくて良かったですね。『考えてから発言しろよこのハゲ!』って言われてましたよ多分」

乃凪 「それお前が思ってる訳じゃないよな? あくまで内沼の代弁だよな?」

悦 「やだなあ、当たり前じゃないですかー」

乃凪 「じゃあなんで笑顔なの? ねえ、何――」



ひゅっ――……がっしゃーん!!!



悦 「きゃっ!?」

乃凪 「な、何かが窓をぶち破って凄い勢いで壁に……怪我はないか? 紺青」

悦 「は、はい……うわ、青いガラス玉みたいなのが壁にめり込んでる」

乃凪 「誰だ外でボール遊びなんてやってる奴は……内沼か?」

悦 「範尚先輩、こういうことがあると大体葛先輩を槍玉に挙げますよね」

乃凪 「そう思わせるあいつが悪い。……で、とりあえず壁から外しとくか」

ノル 「指紋が付くので直接触れるのはお控え願えますか? この現界人が」

乃凪 「……え?」

ノル 「初めまして。突然ですが追われているので匿ってください」

悦 「しゃ、しゃべっ……」

ノル 「時に話は聞かせてもらいました。何やらイベントごとをお考えとのこと」

乃凪 「え、理解がマッハ過ぎませんか? 何時どこで聞いてたんですか?」

ノル 「細かいことは良いのです。こちらで匿って頂けるのでしたら私も智慧をお貸ししましょう」

乃凪 「……あ、いえ、話がややこしくなりそうなので結構です」

内沼 「ただいまー……てか何で窓割れてんのさ、ついに発狂したの? ノリちゃん」

乃凪 「おかえりそして何故お前は俺を真っ先に疑う?」

内沼 「日頃の行いかなぁ」

乃凪 「マジかよ」

悦 「葛先輩、それよりこれ……」

内沼 「え? あ、何それインコじゃん!」

悦 「あ、なぁんだインコだったんですか? めっちゃ流暢に喋るねインコちゃーん」

乃凪 「どうなっているお前らの視力。大体インコだとしたらもう窓ガラスが粉々になった時点で昇天してるだろ! なあ!」

内沼 「ねえインコ、お前どこ産なの? この辺りでは見たことないけど」

ノル 「メルディシアです」

悦 「へー、聞いたことないなー」

ノル 「話を戻しても良いでしょうか」

乃凪 「え、ええ……」

内沼 「話ってなに?」

乃凪 「お前は黙って聞いてなさい」

内沼 「なんだよノリちゃんなんかハゲろ! そしてその跡地に草木が生い茂って緑地化に貢献しろ!」

乃凪 「勝手に人類卒業させるなこの野郎!」

ノル 「…………」

悦 「ちょいちょいお二人! インコちゃんを待たせてますよ!」

ノル 「実は母国の行事で“プけ杯”という五穀豊穣を祝う伝統的な祭りがありまして」

悦 「あ、話し始めた。……ぷけはい?」

ノル 「はい。女性が意中の男性に対しぷちなケーキを投擲し時には死傷者すら出るドッキドキなイベントです」

乃凪 「怖ッ」

内沼 「いろんな意味でドッキドキだね」

ノル 「そこで息も絶え絶えながらも一番ケーキまみれになった男性がその年のプけ王(キング)となります」

内沼 「え、なんかちょっと面白そう」

乃凪 「え、どこが?」

内沼 「だって一番のイケメンがケーキまみれになるってことでしょ? 最高じゃん」

乃凪 「内沼くん真っ黒だなー……」

悦 「でもケーキを投げるってところで学校行事としてはOKが出ない可能性がありますね」

ノル 「見た目だけケーキを模したものを使えば良いのではないでしょうか」

悦 「なるほどー……どうですか先輩方! 今の案、企画書にして出してみましょうよ!」

内沼 「は? 何の話?」

乃凪 「お前はちょっと黙っててくれ。……まあ、出すかどうかは沢登と真朱先生次第じゃないか?」

内沼 「ハゲろ」

乃凪 「黙れモジャキング」

内沼 「身体的特徴をあげつらうなんて人として最低の行為だからな!」

乃凪 「どの口が!? どの口が!?!!?」

悦 「あの二人はほっといて……面白い情報をありがとね、インコちゃん!」

ノル 「いえいえ、即席で作った話の割に喜んで頂けて嬉しいです」

悦 「え、今何て?」

ノル 「……さて、それではそろそろお暇致しましょう」

悦 「あれ? 追われてるんじゃなかったの?」

ノル 「いえ、そのような事実はございませんが?」

悦 「えっ」

ノル 「一度言ってみたかったのです。それでは皆さんごきげんよう」

悦 「ば、ばいばーい……結局何の為にガラスを割ったんだろう」

内沼 「あれ、インコは?」

悦 「帰っちゃいました。……ところでこれ、どうします? 窓ガラス。あのインコちゃんが割ったんですけど」

内沼 「“ノリちゃんがちょっとはっちゃけた結果”だって伝えれば先生も許してくれるんじゃないの?」

乃凪 「ああ、お前や沢登との会話で生じる日頃のストレスがかさんでついに爆発? たとえそれで許されても病院連れてかれるわ」

悦 「あ、沢登先輩の舞の風圧で吹っ飛んだことにしますか?」

内沼 「紺青の発想天才的じゃん。もう良いよそれで」

沢登 「わははははははははははッ!! よんだッかーい!?」

内沼 「呼んでないよ変態」

乃凪 「……とりあえず片づけるか」

悦 「ですねー」



流星のごとくガラスを破壊し壁にめり込んだ青い球体からの発案で、俺達はとりあえず適当な企画書を作って提出した。

『モテる男が楽しいだけのものに成り下がるんじゃ』という懸念点は、
“1~3位までの順位を事前予想して申請し、それが当たっていた生徒は学校から何らかの素敵な景品が出る”
という方法で無理やり解消した。
そして投げるケーキは本物ではなくそれを模したもの。

そんな本当にざっくりしたものを作って出して、過ぎること数週間……。



アナウンス 『皆さんケーキの準備は整ってますか? プチけぇき争奪杯、略してプけ杯、開始一分前です!』



通った。しかも割としっかりした企画となって戻ってきた。

全校生徒はジャージ着用のもと校庭に集められ、男子は全員がゼッケンを背負う。
プけ杯スタート後はそこから逃げるなり自分から当たりに行くなりは人それぞれ。

逃げて良いフィールドは決まっており、そこからはみ出ようものなら失格になる。
更にプチなケーキを投げていいのは女子だけで、男子が投げるとそれも失格となる。

そして……順位予想が当たった人間へのご褒美には学食三か月間食べ放題という大盤振る舞いよう。



乃凪 (この学校の大人は暇なんだろうか)

萩原 「ジャージに着替えてもなぁ……当てられる予定すらないっていう」

乃凪 「というか萩原、お前のとこだろ企画書の選別は」

萩原 「俺と西村は止めたぞ……? 今回のは女子組の意向だよ……というか企画書出した風紀に言われたくないが?」

乃凪 「それはなんて言うかすんません」

松本 「ああ、肩身の狭い顔面格差社会……」

萩原 「遺伝子情報には抗えないものさ、松本剛くんよ」

乃凪 「それにしても開始から終了までの時間、暇しそう」

松本 「それを本気で言ってるならお前とは絶交だ」

乃凪 「え?」

萩原 「松本、奴の目を見ろ本気だから。……乃凪、お前も頑張れよ?」

乃凪 「は……?」

アナウンス 『にぃ……いち…………ぜろッ! それでは張り切って参りましょう! プけ杯スタートでーす!』



ぐちゃ……。
開始の合図とともに異様な音と衝撃が我が身に走った。



女子生徒1 「乃凪先輩、受け取ってください……!」

女子生徒2 「きゃー! ちゃんと当たったー!」

乃凪 「え……」

女子生徒3 「乃凪くん受け取ってー!」

女子生徒4 「オルァ! 当たれやァ!!」

乃凪 「えっ……ちょっ……」

乃凪 (いやいや何故俺に!?)



動揺する俺の耳に萩原の『ほら逃げろ逃げろ! ケーキまみれになるぞ!』という笑い声。
これ以上があるかは分からない。
だが件のケーキがいくら“洗えば落ちる仕様”とて、これ以上ジャージを汚したら家で叱られる。



乃凪 「…………」



一気に血の気が引いた俺は全力で逃げた。
皆が楽しくきゃっきゃするイベントで、俺だけマジ走りである。
走りながらどうにかこれ以上ジャージを汚さない方法を考え……そして答えはすんなりと出た。

男子が逃げ惑うフィールドは屋外に限定されている。
つまり、学校の中に入れば一発アウトでこのゲームから卒業することができるのだ。



乃凪 「よし、そうと決まったら下駄箱に……」

内沼 「ちょっと卑怯じゃないの? それ」

乃凪 「……! ぬ……内沼か……お前驚かすなよ」

内沼 「ノリちゃん、学校に入ろうとしてたでしょ」

乃凪 「ああ、それが?」

内沼 「えー……それ真顔で言えるのすごいねー……ノリちゃんに当てようと思ってた子達が困っちゃうじゃん」

乃凪 「それなんだが、なんで俺がケーキを当てられてるんだろう?」

内沼 「は?」

乃凪 「だって今まで特にもてたことは……あ、俺だったら当ててもあんまり怒らないからってことか?」

内沼 「…………」

乃凪 「え、俺なんでお前に溜息つかれないといけないの?」

内沼 「くたばれイケメン!」

乃凪 「なっ……ぎゃっ……!」



避ける暇なんてなかった。
ドスの聞いた声を出した内沼の放つ何かが顔面にクリーンヒットする。



乃凪 「痛ったぁ…………なんでお前がケーキ持ってんだよ!」

内沼 「すっごい可愛い女の子から預かったんだよバァカ」

乃凪 「誰だよそれ……」

内沼 「はあ!? 自分で当ててみろよハゲッ! じゃあな!」



クリームの所為で視界のきかない耳に、奴の走り去る足音だけが聞こえる。



乃凪 「あいつ……後で覚えてろよ」

女子生徒5 「乃凪先輩みーつけた!」

乃凪 「!」



内沼とのやり取りの所為で自ら居場所を晒す羽目になった俺。
お蔭で各所からケーキが飛んでくる。

靴を履き替えるなんて悠長なことは言っていられないと思い、近くにある学生の通用口へ猛ダッシュする。
……が。



乃凪 (……マジか)



固く締め切られた戸口はどうやら鍵がかけられている様子。
神の意向を悟った俺は逃げるのを諦め、さっきまでいた場所へ戻る為に歩き出した。

その間も散々ケーキを浴び続けた俺は切ない気持ちで一杯になり、
楽しげに雑談していた萩原と松本の元に着くと周りをうろうろして流れ弾を食らわせてやった。

そんなこんなで一時間後、プケ杯はつつがなく終了した。
……が、誰もが予想してたかも知れない事件が起こった。

順位を決める段階になり、
“本人の輪郭すら一部おぼろげになるほどケーキにまみた人間”が複数いた結果、
『誰が一位かが目視で判断不可能』という、運営委員会の見通しの甘さが露見したのだ。

今更女子に統計を取るのも違うし、秘匿性こそこのイベントの最大の良さだったのではという話にもなり。
仕方がないのでその複数人でくじ引きをしたところ……。



アナウンス 『それでは初代プけ王からのコメントです!』

乃凪 『……えー、誠に光栄です。ありがとうございました』



何故か、俺が選ばれた。

しかし表彰式で良く分からない賞状をもらった以外に副賞があるわけでもなく。
俺は満身創痍の体を引きずりながら、他のケーキ被害者達と同様に運動部用のシャワー室へと向かった。



内沼 「わー、ノリちゃんってばすっげーイケメンじゃーん」

乃凪 「…………」

内沼 「もっと喜べよなー」

乃凪 「義理チョコならぬ義理ケーキを大量にくらった気分なんだが。本命ならまだしも」

内沼 「へえ、ノリちゃんもそういうこと言えるんだねー」

乃凪 「どういう意味だよ……というか、お前も割と食らってんだな」

内沼 「お蔭さまで?」

乃凪 「…………」



ふと、彼女は誰に投げたのだろうと思った。
さっきまでの一時間、すれ違いもしなかった。



乃凪 (……まさか内沼に当てられたケーキのうちの一つが)

内沼 「何、俺の体見て。気持ち悪いんだけど」

乃凪 「いや、何でもない」

内沼 「はぁ? 理由言ってよ!」

乃凪 「誰が言うか馬鹿!」

内沼 「何逆切れしてるんだよ!」

乃凪 「…………」

乃凪 「……そういえば、お前誰から預かったって? さっきのケーキ」

内沼 「大量の義理ケーキの中の一つなんだろ? だったら誰でもいいじゃん」

乃凪 「いや、お前がルール無視して引き受けた相手だし気になるだろ」

内沼 「誰か当てたら教えてやるよ」

乃凪 「おい、それ当たらなかったら永遠に分からないってことか?」

内沼 「そだよ」

乃凪 「…………」



彼女からだったら嬉しいと思う。
反面、違ったらこいつに頼んだ人に失礼な話で。


俺は深呼吸の後、ゆっくりと天を仰ぎながらこう思った。



乃凪 (……取りあえず、新入生の為にプけ杯の廃止を訴えておこう)



完.

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