祝☆7/27は望月理也聖誕祭

本日7/27は月影の鎖“望月理也”の誕生日です!
……という訳で、今回はこちらのブログスペースをお借りしてお誕生日特別SSを公開させて頂くことになりました。
本編が始まる前の望月の内面を少しだけ垣間見ることが出来ますので、是非楽しんでくださいませ!
twitterにお祝いコメントをお寄せくださった方、有り難う御座いました!
これからも『月影の鎖』を宜しくお願い致します☆

望月お誕生日SSは続きからご覧ください♪








ある日、俺は神楽坂さんに直接名指しをされて共に紅霞青年団として商店街の見回りへ赴いた。
彼がこんな風にすることは俺に限らず初めてで、一体何があるのかと少々疑問に思っていたが、
見回りは何事もなく淡々と進むばかり。
特に意味はなかったのだろうか……と、考えていた矢先、
彼は何の前触れもなく、突然商店街の人々の前でこんなことを言ってのけたのだ。
『ああ、彼は俺の右腕なのだよ』
驚きのあまり、思わず俺は目を見開いた。


――『望月くん。今日も気張りや?』
朝、笑顔で送り出してくれる芸妓の菖蒲さんに小さく頭を下げた。
彼女は俺の顔を見るといつも優しく送り出してくれて、少しだが、不思議と心に渦巻くもやもやが解消される気がするのだ。
だが、隣で頬を赤く染め、もじもじと恥ずかしそうな少女に小さく応援の言葉を掛けられると、俺はなんとも言えない気持ちになる。
嫌いなどでは決してない。ただ色々と複雑な気持ちになるのだ。
……だから、微笑んで応えるより他にない。
「行ってきます」
俺はそんな環境の下に生きている――。


『おーい、望月。大丈夫か?』
『あれだろ? 突然神楽坂さんに指名されたもんだから、未だに驚いて意識が飛んでるとか』

(……あ)
「そんなんじゃないですよ。……まぁ、何がどうなって俺なのかは皆目見当が付きませんがね」
俺は半ば持っていかれかけていた意識を、急いでこの場に戻す。
頭の中はすっかり今朝の紅華楼でのやりとりになっていたが、
今は紅霞青年団の仲間達に連れ出された温泉街の居酒屋にいるのだ。
祝いの席だと用意してくれた彼らに対して、失礼なことをするつもりはない。

『本当に分からないのかぁ?』
「ええ、全然分かりません」
『でも思い当たる節がないのに突然の右腕抜擢宣言なんてさ……
 やっぱり、何か大きな手柄を立てたとか、そういうことが実はあったりするんじゃないのか?』
「……ないですよ、そんなの」

……思いがけず声が少しだけ低くなってしまった。けれど、彼らは特に気付いた様子もなく胸の内で安堵する。
そんなことがもしあったなら、多少は俺も自信を持てているだろう。
逆に、何故俺だったのか、知りたいのは俺自身の方だ。
あの人が自分の何を買ってどうさせたいのか、聞いてみてもはぐらかされるのは目に見えているけれど。

「……神楽坂さんって、どういう人なんでしょうね」
気付けば思わず口から漏れてしまっていた一言。
だが、そんな俺の疑問に彼らは肩をすくめるようにして答えた。

『さあ、俺らにはさっぱり』
「……やっぱり、分かりませんか?」
『分からないよ。あの人は頭が良すぎる、俺達とは住む世界が違うんだ』

――分かるはずもない。
彼らの言う通りだ。そう、俺にも分からない。
『右腕だ』と突然周囲に紹介しながら、名指しした理由すら明かしてくれない。
勿論、他のことに関してだってそうだ。何一つ話してくれない。相談してくれない。

(……したって仕方が無いからなんだろうな)
分かってはいる。俺は神楽坂さんのように頭が良い訳ではない、寧ろ世間知らずな方だろう。
確かに腕っ節には多少なり自信はあるが、それだけを買って神楽坂さんが俺を選ぶとはとても思えなかった。
けれど、他に何があるのか考えてみても思い当たる節などあるはずもない。
……神楽坂さんの姿を頭の中に思い描くと、自分の劣った部分ばかりが見えてくる。

――気付けば仲間達の話題はもう別のものに移り変わっていた。
そう、青年団以外のこと。娯楽、家族のこと、勿論女性関係についてのこともある。
流石に観光客向けの高級娼館である紅華楼については、やれ誰が綺麗だ誰が可愛いだくらいの会話しか出てこないが、
中には純愛の文字には似つかわしくない話も躍り出る。
否定する気はないが、進んでついていくような話題でもない。
女性という存在を、常に隣り合わせに意識させられて生きてきたからかも知れない。
周りが笑顔を浮かべるまま、俺も時折相づちを打ちながら、彼らとの間に何か見えない隔たりのようなものを感じている。


身体を鍛える為に走り込みをし、家という名の高級娼館に帰る。
客も帰った夜と朝の間に、迎えてくれる少女の頬には涙の痕があった。
……その理由には容易に想像が付いてしまう。
だが、俺は彼女の何にも触れなかった。
その分、笑顔を湛えてこう答えた。

「――ただいま戻りました」



おしまい
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